天体の音楽(Langgaard)

おはこんばんにちは。作曲の大沼です。
作曲と言えど、本当に人それぞれの作り方があるな…といつも思っています。それがポピュラー音楽/バンド音楽でも、オーケストラのような音楽でも本当に様々。ちょっとアバンギャルドな音楽となると、同じ作曲家でも曲ごとに作り方が違う事も殆どです。

そこで今回は、音として美しく、でも作り方や考え方が結構ブッ飛んでそうな音楽をご紹介しようと思います。
クラシック音楽なので、他のサイトでも同じ楽曲の紹介はありますが、私なりに譜面を見て思ったことなどを添えて。

Rued Langgard作曲
Sfærernes Musik – 天体の音楽
(1916~18)

タイトルさながら、聴いていると、なんか宇宙の中にいるみたいだなと、思える作品です。
オーケストラをイメージすると、まずステージの手前で指揮者を囲むように、ヴァイオリンやチェロなどの弦楽が居て、順に奥に向かって、木管楽器、金管楽器、パーカッション。ステージの端にハープや時にはピアノなどが配置されますね。これが全部揃っても結構大編成なオーケストラなのですが、この「天体の音楽」は、この編成がえらいことになっています。


オーケストラ編成
4 Flutes (Piccolo 持ち替えあり)
3 Oboes (Cor Anglais 持ち替えあり)
3 Clarinettes
3 Bassoones

7 Horns
3 Trumpets
3 Trombones
1 Bass Tuba

8 Timpani (⁉)
Cymbals
Tubullar-Bells
Glissando Piano
Organ

Chorus – Soprano
Chorus – Alto
Chorus – Tenor
Chorus – Bass

Violins
Violas
Violoncellos
Contrabasses

遠くのオーケストラ(⁉)
2 Flutes
1 Oboe
2 Clarinettes
1 Horn
1 Timpani
1 Harp
3 Violins
2 Violas
1 Violoncello
1 Contrabass


編成の見方ですが、4 Flutesと書いてある場合、フルート奏者は4人必要と言う事になります。ホルンが7人もいる!…と言うのは実は割とメジャーだったりします(多いけど。)
しかしティンパニが8個(奏者も譜面上では4人必要みたいです…)と言うのは、超豪華…と言うより「なぜそうなった」とツッコミが入りそうですが、この作品ではちゃんと8個必要な内容となっております。
さらっと書いてありますが、オルガン。コンサートホールにあるオルガンが動くわけですから、これ一台でもオーケストラがもう一群いるようなものですね。
加えて合唱。オーケストラと合唱が一緒に演奏されるのは、ベートーベンの第九などが有名ですね。あんなに大勢の演奏家たちが並ぶのです。
弦楽器群には必要な奏者の数/プルトの数は書いてありませんが、この作品の性質上、ヴァイオリンは20人は居ないと演奏ができません。
で、オルガンで「もう一群オケがいるみたいですね」と言ってたら、本当にこの作品ではもう一群オケが必要なんだそうです。それが「遠くのオーケストラ」(マジか。)
流石にメインオケよりは小編成ですが、古典の作品などは充分に演奏できそうな編成です。よくある編成では、バンダと言ってステージ裏に居たりするのですが、この編成だと、ある程度広いステージ裏が必要な気がしますね。

この作品は1916~18年に掛けて書かれたそうですが、オーケストラを使って「音響的」な表現をするような現代音楽が生まれる時代より、20年も30年も先に生まれています。かなり当時としては前衛的だったんですね。

それではまず聴いてみましょう。いつまでリンクが残るかわかりませんが、YouTubeで聴けるんです。

そして楽譜も閲覧できます。
楽譜の全容をご覧になりたい場合は、ぜひリンク先よりご覧ください。

冒頭より

うわ…もういっぱい音が鳴ってます。しかもピアニッシモ(pp)。こんなに鳴ってて一体どんな和音か…E♭メジャーのスケールの音を1オクターブに渡って、トレモロで全部鳴らしています。でもこれがとっても綺麗(と、思いませんか?笑)
4小節目から、ヴィオラの皆さんが1オクターブ下に向かってさらにE♭メジャーのスケールを順番に鳴らしてゆきます。ほんと、星が瞬いているよう。

2オクターブ埋まると、ティンパニが鳴ります。F#とC#。力強いし、意味深げ。

 


 星の瞬きとティンパニの呼応をもう一度繰り返した後、少し変わった形でさらに星が瞬くかのような様子が。まだメロディーではありませんが、だんだんと色彩が増えていく感じですね。


今度はティンパニのターン、と言わんばかりのティンパニの嵐。
ここでいきなり8個も使うんですからね。しかし表立ってドカドカ鳴らさず、地を這う様に荘厳です。ホルンの不思議なメロディーと、ヴァイオリン、ヴィオラのメロディーが、カノンを成して畳み掛けてきます。

(7:50あたり)

こりゃまたすごい。聴いても各パートが何を弾いてるかなど、もはやはっきりとはわかりません。でもこれ、この作品の冒頭部分と、その中間部、そしてこの譜面の部分…と、少しずつ変化していますが、同じテーマですね。

その後、やっぱりティンパニのターンは帰ってきます。

(10:23あたり)

ティンパニのターンの最中、オルガンも登場しかなり盛大になりますが、我に帰ったかのように、変化したテーマが元の形で帰ってきます。

(12:17あたり)

しかしテーマが次に連れてくるのは、全音音階の嵐。これまでのスケール感が感じられる音像に対して、不安げです。

ちょっと戻りますが、このシーンに入る前のテーマが、2オクターブで使った音域を一度飛び出してからここに導入されるのが、微細なようで異質な変化を聞かせている、技が効いてるなぁ…と思います。(12:09あたり)


不安げな全音音階の裏で、ティンパニが「まぁ落ち着け」と言うように、控えめに鳴っているのですが、その後全音音階は歌を伴って更に力を増して現れます。
しかもなんとも奇天烈なメロディーライン。歌詞は…

「do – re – mi- fa- so – la」

…突然、なんですか。しかも音は「ドレミ」じゃないし。

これが結構な回数繰り返されます。「ドーレミーファソーラー♪」
「シ」は歌わないのかよ、と思っていたらこのシーン、バスラインが「シ」なんです。

偶然かしら。狙ったのかしら。


かなり全音音階の不安げなフラストレーションが溜まった後、スケール感はあるんですが、また怪しいし、穏やかじゃない表情で帰ってきます。


それらが少し落ち着くと、かつてメロディーが生まれそうだった断片が、少しずつ帰ってきます。金管の雄大な響きが安心感を与えます。

(18:00あたり)

メロディーの断片たちが、やっとメロディーになった。なんか宇宙のチリやガスが集まって、星を形成した瞬間みたいですね(強引)。


まだちょっと星形成に不安はありそうだけれども…(18:16あたり)


先にメロディーを形成した群れが、断片が形になるのを後押しするように、喜びを伴って変奏されます。(18:27)

(19:38あたり)

メロディーの後は幻想的な和声の進行により、これまで生まれた色彩が少しいびつな形で交わります。喜びは束の間、といった雰囲気でしょうか。


何かが歩み寄ってくるような不安げなバスライン。孤立したメロディーも途絶え途絶えです。(22:50あたり)
再び群れて帰ってきますが、一度は美しさを形成したメロディーも我を忘れているかのよう。色彩が歪んでいます。

(24:54あたり)

しかしここで目覚めさせてくれるのはティンパニ。思えばこれまでもメロディーを形成するまでの過程、いつも見守ってくれていた気がします(妄想)。
それに続くテーマも豊かな色彩に戻り、確信を持って進行してゆきます。


様々な色彩を内包していたことを確かめるように、転調を伴って展開。(25:20あたり)

(26:17)

身体中に血が行き渡り、宇宙が形成されたのちに、雄大なメロディーが形を作り、現れました。


そしてそのメロディーが連れてくるのは言葉を持った歌です。(26:51あたり)
歌のメロディーも美しいですね。これまで言葉のない世界に生まれた言葉。人間が地球に現れた瞬間のようです。

(31:30)

しかし人間の出現は、天体(地球)にとって喜びばかりでしょうか(31:30あたり)

 


人間も存在して回っているのがこの天体であると言うことは、認めざるを得ない…といったような、宛ての無い音の集まり、人間の声などが、不安げで幻想的な音響を作っています(32:30あたり)。


物語の視点が急に切り替わったようで、天体が遠くへ消えていくかのようです。色々起きてきた割りには、あっけないエンディング(35:02あたり)。

———————————————

いかがだったでしょうか。
実際この楽曲は15部に分けられ、それぞれに標題も与えられているのですが、実際に使われている音楽的な素材や、動機/メロディーを追うだけでも、純粋に音楽だけで構成されているドラマティックなストーリーが、見て聴いて取れるのではないかと思います。
「天体の音楽」と言う標題をもとに、今回はイメージ(もはや妄想)を膨らませましたが、一見音響だけのようなスケール音の塊も、だんだんとメロディーに変化したり、その変化に応じて使われる和声や音響の変化、また鍵となる楽器の出現など、文字では無い音楽としてのシナリオも楽しめる作品ではないかと思います。

また面白そうな作品があったらご紹介したいと思います。
音楽の中のドラマ。是非色んな作品の中を、聴いて探して、想像してみて下さい。

高度で複雑な内容を理解する
武蔵野音楽大学出身で現代音楽等の作曲家「大沼弘基」による音楽理論レッスンです。
基礎音楽理論レッスンのさらに先を学べる受講者のみに開講しております。

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